義務

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    義務
    詞:岡本いさみ 曲:浅沼勇

    「今日だけは人間らしくいたいから
    デモの列で歩いてくるよ 陽気にね」と言うと
    女房は子供をあやしながら
    「気をつけてね、行かせたくないけど・・・」と言ってから、
    「そこまで私が立ち入ることは、許されないわね」とつけくわえた
    僕は庶民です
    どこの党にも関係ない
    税金を払ってる一庶民です

    僕が好んでいることといったら
    貧しい詩を書くことくらいで
    国の運命などというものは
    ふだんは忘れていて
    新聞を読み捨てちまう
    あくせく働く一庶民です

    「でもでもデモに行くからね」と言うと
    「へんなシャレ」と女房は笑って
    心配してるのが顔にあらわれていた
    それで僕は陽気におどけてみせて
    団地の階段を2段ずつ跳び下りると
    今日は胸をはって静かに歩いてこようと思うのだった




    六月

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      からっ梅雨。
      朝までラジオを聞く。

      お偉いさんは今日もズルいやり方で
      重大な決め事を押し通す。
      僕たち庶民はなすすべもなく
      真綿で首を絞められていくのか。
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      六月  茨木のり子

      どこかに美しい村はないか
      一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒
      鍬を立てかけ 籠を置き
      男も女も大きなジョッキをかたむける

      どこかに美しい街はないか
      食べられる実をつけた街路樹が
      どこまでも続き すみれいろした夕暮は
      若者のやさしいさざめきで満ち満ちる

      どこかに美しい人と人との力はないか
      同じ時代をともに生きる
      したしさとおかしさとそうして怒りが
      高い鼻に胸でも病んでいるらしい
      鋭い力となって たちあらわれる

      静物

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        静物 吉岡実

        夜の器の硬い面の内で
        あざやかさを増してくる
        秋のくだもの
        りんごや梨やぶだうの類
        それぞれは
        かさなったままの姿勢で
        眠りへ
        ひとつの諧調へ
        大いなる音楽へと沿うてゆく
        めいめいの最も深いところへ至り
        核はおもむろによこたはる
        そのまはりを
        めぐる豊かな腐爛の時間
        いま死者の歯のまへで
        石のやうに発しない
        それらのくだものの類は
        いよいよ重みを加へる
        深い器のなかで
        この夜の仮象の裡で
        ときに
        大きくかたむく

        いびつ

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          三種のアスパラ 空豆 スナップ豌豆


          この時期の独活の葉は天ぷらで最高です。
          芹菜は出汁巻きとお浸しに。
          わさび菜はそのままサラダに。


          いびつな野菜をずっと見ていると
          違った物に見えてきて、愛着が出て
          調理するのがもったいない程です。


          「There was a Crooked Man」  マザーグース

          いびつな男がおりました
          いびつな小道をあるいたら
          いびつな木戸のその裏で
          いびつな小銭を拾ったと

          いびつなネズミをつかまえた
          いびつな猫を買って帰り
          いびつな小さい彼の家
          いびつに仲良く暮らしたと

          花の花

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            当店の庭の花々は満開





            「詩人から頭の固いひとに」 
            ラングストン・ヒューズ/木島始 訳
             
            ぼくは さっぱり何もしてあげなかったね
            きみの ために、
            きみも さっぱり何もしてくれなかったね
            ぼくの ために、
            だから ぼくたち 意見一致しないのには
            充分に 理由がある。
             
            しかし ぼくは
            瞬間に しがみつき、
            いとも かすかな力しかもたぬが、
            きみは 支配しているのだ
            時間を。
             
            しかし きみの
            時間は 石だ。
             
            ぼくの 瞬間は
            花だ。



            拍手

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              卯月一日
              裏庭の椿は落ちて

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              入口のサクランボは芽吹き

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              店内の桜は満開

              アプローズ    覚 和歌子

                  毎日の 晩ご飯のごちそうに 拍手
                  食うや くわずの暮らしは
                  ご飯とお新香だけでもおいしくて 拍手
               
                  道端の犬のうんこに
                  「よくまぁ こんなに出たもんだ」と  拍手

                  それをデートの時
                  しかも 新しい革靴で踏んづけて
                  滅多にできない経験だから 拍手

                  生まれてくる赤ん坊に 拍手
                  生まれてすぐ死んだ弟に
                  わざわざ 苦労しなくってすんでよかったと 拍手

                  百歳で死んだおじいちゃんには
                  こんな世の中に100年もよく生きたと 拍手

                  大天才の芸術作品に オー ブラボー と 拍手
                  迷いのつきない芸術家には 長い旅の楽しみに 拍手

                  ピチピチと健康な体に 拍手
                  抱え込んだ病気には
                  乗り越えられる力を 試されていて 拍手

                  不治の病には
                  たった今生きているという そのことの眩しさに 拍手

                  善人は そのまんまで救われて 拍手
                  悪人は その罪深さのせいで
                  尚のこと救われる余地があって 拍手

                  垣根に咲いた
                  赤い寒椿の その赤さに  拍手

                  枯れ落ちた 赤い寒椿から
                  地面にその種がこぼれて 拍手

              世界はうつくしいと

              0
                「世界はうつくしいと」

                うつくしいものの話しをしよう。

                いつからだろう。ふと気がつくと、

                うつくしいということばを、ためらわず

                口にすることを、誰もしなくなった。

                そしてわたしたちはの会話は貧しくなった。

                うつくしいものをうつくしいと言おう。

                風の匂いはうつくしいと。

                渓谷の石を伝わってゆく流れはうつくしいと。

                午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。

                遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。

                きらめく川辺の光はうつくしいと。

                おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。

                行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。

                花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。

                雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。

                太い枝を空いっぱいにひろげる

                晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。

                冬がくるまえの、曇りの日の、

                南天の、小さな朱い実はうつくしいと。

                コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。

                過ぎてゆく季節はうつくしいと。

                さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。

                一体、ニュースとよばれる日々の破片が、

                わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。

                あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。

                うつくしいものをうつくしいと言おう。

                幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。

                シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。

                何一つ永遠なんてなく、いつか

                すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。


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