静物

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    静物 吉岡実

    夜の器の硬い面の内で
    あざやかさを増してくる
    秋のくだもの
    りんごや梨やぶだうの類
    それぞれは
    かさなったままの姿勢で
    眠りへ
    ひとつの諧調へ
    大いなる音楽へと沿うてゆく
    めいめいの最も深いところへ至り
    核はおもむろによこたはる
    そのまはりを
    めぐる豊かな腐爛の時間
    いま死者の歯のまへで
    石のやうに発しない
    それらのくだものの類は
    いよいよ重みを加へる
    深い器のなかで
    この夜の仮象の裡で
    ときに
    大きくかたむく

    いびつ

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      三種のアスパラ 空豆 スナップ豌豆


      この時期の独活の葉は天ぷらで最高です。
      芹菜は出汁巻きとお浸しに。
      わさび菜はそのままサラダに。


      いびつな野菜をずっと見ていると
      違った物に見えてきて、愛着が出て
      調理するのがもったいない程です。


      「There was a Crooked Man」  マザーグース

      いびつな男がおりました
      いびつな小道をあるいたら
      いびつな木戸のその裏で
      いびつな小銭を拾ったと

      いびつなネズミをつかまえた
      いびつな猫を買って帰り
      いびつな小さい彼の家
      いびつに仲良く暮らしたと

      花の花

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        当店の庭の花々は満開





        「詩人から頭の固いひとに」 
        ラングストン・ヒューズ/木島始 訳
         
        ぼくは さっぱり何もしてあげなかったね
        きみの ために、
        きみも さっぱり何もしてくれなかったね
        ぼくの ために、
        だから ぼくたち 意見一致しないのには
        充分に 理由がある。
         
        しかし ぼくは
        瞬間に しがみつき、
        いとも かすかな力しかもたぬが、
        きみは 支配しているのだ
        時間を。
         
        しかし きみの
        時間は 石だ。
         
        ぼくの 瞬間は
        花だ。



        拍手

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          卯月一日
          裏庭の椿は落ちて

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          入口のサクランボは芽吹き

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          店内の桜は満開

          アプローズ    覚 和歌子

              毎日の 晩ご飯のごちそうに 拍手
              食うや くわずの暮らしは
              ご飯とお新香だけでもおいしくて 拍手
           
              道端の犬のうんこに
              「よくまぁ こんなに出たもんだ」と  拍手

              それをデートの時
              しかも 新しい革靴で踏んづけて
              滅多にできない経験だから 拍手

              生まれてくる赤ん坊に 拍手
              生まれてすぐ死んだ弟に
              わざわざ 苦労しなくってすんでよかったと 拍手

              百歳で死んだおじいちゃんには
              こんな世の中に100年もよく生きたと 拍手

              大天才の芸術作品に オー ブラボー と 拍手
              迷いのつきない芸術家には 長い旅の楽しみに 拍手

              ピチピチと健康な体に 拍手
              抱え込んだ病気には
              乗り越えられる力を 試されていて 拍手

              不治の病には
              たった今生きているという そのことの眩しさに 拍手

              善人は そのまんまで救われて 拍手
              悪人は その罪深さのせいで
              尚のこと救われる余地があって 拍手

              垣根に咲いた
              赤い寒椿の その赤さに  拍手

              枯れ落ちた 赤い寒椿から
              地面にその種がこぼれて 拍手

          世界はうつくしいと

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            「世界はうつくしいと」

            うつくしいものの話しをしよう。

            いつからだろう。ふと気がつくと、

            うつくしいということばを、ためらわず

            口にすることを、誰もしなくなった。

            そしてわたしたちはの会話は貧しくなった。

            うつくしいものをうつくしいと言おう。

            風の匂いはうつくしいと。

            渓谷の石を伝わってゆく流れはうつくしいと。

            午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。

            遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。

            きらめく川辺の光はうつくしいと。

            おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。

            行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。

            花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。

            雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。

            太い枝を空いっぱいにひろげる

            晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。

            冬がくるまえの、曇りの日の、

            南天の、小さな朱い実はうつくしいと。

            コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。

            過ぎてゆく季節はうつくしいと。

            さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。

            一体、ニュースとよばれる日々の破片が、

            わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。

            あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。

            うつくしいものをうつくしいと言おう。

            幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。

            シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。

            何一つ永遠なんてなく、いつか

            すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。


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